第8回 レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング 2022
心地よさをデザインするー鉄道と織物ー2022年5月26日(木) インテックス大阪 展示会場内特設会場
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【第1回】
■ 鉄道技術展・大阪との併催 -
【第1回】
5月25日から3日間、インテックス大阪で、「鉄道技術展・大阪」が初開催された。2010年から2年に1度開催されている「鉄道技術展」が幕張の地を初めて離れての開催となった。これにあわせ、例年年末に開催しているレイルウェイ・デザイナーズ・イブニング(以降RDE)も会期中日の5月26日、展示会場内の特設会場にて行われた。
■ 鉄道技術展・大阪との併催
今回のテーマは「心地よさをデザインする -鉄道と織物 鉄道の魅力をひきだすテキスタイルデザインの過去・現在・未来」。関西は鉄道車両などで使用されるモケット(座席などに使用される布地)の一大生産地であり、歴史ある帯や緞帳などの織物文化に端を発している。第一部では日本のモケット製造の第一人者である龍村美術織物、住江織物のご登壇者より、老舗の織物企業が工業製品であるモケットを取り扱うに至った歴史や織物文化、技術について発表いただいた。
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■ “心地よさ”とは
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■ “心地よさ”とは
第一部の冒頭に、RDE実行委員長である近畿車輛・南井取締役による基調講演が行われた。はじめに、このRDEフォーラムの主旨とともに、開催が8回目となり9年の長きにわたり様々なテーマを掲げ鉄道デザインについて議論され、鉄道技術展の開催と歩みを共にしてきたことが報告された。
今回の開催にあたり、実行委員の中で「“心地よさ”とは何か」についての議論が繰り広げられたという。「気持ちのよい」というのは当然のことながら、「快適」ということとは違うのか。「快」は“気持ち良い”ことで、「適」は“あって当たり前”のこと。「爽快」や「痛快」の“快”は、「気持ちがいい」という意味の言葉だが、「適」というのは“ある一定のレベルが維持できているかどうか”ということである。
「心地よさ」を念頭に鉄道車両デザインで重要なのは何かについて考えると、インテリアデザインがエクステリアデザインと最も大きく違う点は「時間を過ごす」ということである。路面電車では一駅3分で降りるかもしれないし、新幹線で2時間半かけて東京に戻るかもしれない。「時間を過ごす」というのが非常に大きな要素であり、それは視覚だけではなくて、触覚や、聴覚、嗅覚など、いろんな部位の感覚が混ざって「心地よさ」になっていく。
それから設備や動線といった要素もある。鉄道車両は時速300kmで走っている乗り物の中で唯一シートベルトをしなくていい乗り物である。たとえば、乗車中にトイレに行くにしても、トイレの使い勝手や、快適に社内を移動できる動線というものも検討しなければいけない。そこには「心地よさ」と同時に、子供からお年寄りまで誰が使っても怪我をしない「安全性」というものが求められる。
また、加えて重要になってくるのは、「時間を過ごす」ことや、他の「心地よさ」というものに対して、「ノイズの有無」というものもある。どのようなノイズを強調し、どのようなノイズをなくしていくのか、デザインする上で非常に重要である。例えば、白いご飯を食べるのに塗り箸で食べるのと、韓国の金属の箸で食べるのは、食感が変わってくるが、これと同じような感覚である。「心地よさ」と「ノイズ」という両極端の発想と時間が鉄道デザインを考える上で必要である。インテリアデザインにおける多様な視点を披露した。
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■ 着物の帯から鉄道車両用のシートまで
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■ 着物の帯から鉄道車両用のシートまで
続いて、モケットを製造する2社の方に、会社の創業からの沿革、モケットに携わった歴史についてご説明いただいた。最初に龍村美術織物の龍村会長にご登壇いただいた。
龍村美術織物は、初代は明治27年に大阪・船場で織物会社を興したが、のちに織物屋として商を興し、西陣に行って織物を購入し販売する事業からスタートした。明治の初め頃にフランスから導入されたジャガードによって精密なコントロールができるため、「これならいろんな織物が織れそうだ」ということで、創始者はそれまでになかった織物を試みていった。しかし、こうやって新しいデザインを追求していくと、古い歴史のある西陣の織屋から「同じような織物がある」と指摘され訴訟になる。そこに反しようものなら、ますます「こんな織物があった」という風にさらに指摘をされてくる。そこで創始者は「自分が発明したものだけではだめで、もっと古い織物から勉強し直して、新しい織物を作らないと世間から認められない」というに思い至る。古く残っている織物を復元し、まったく同じものを作ろうとすれば、その構造から織り方、色の出し方など知ることができる。創始者はそれに誠心し、技術を蓄積していった。
その後、織りの技術によって航空機の座席の表地を受注、続いてクルマの内装地や鉄道のモケットを生産するに至る。龍村美術織物では、古い織物をベースについて“新しい織物”を作る、という方向性も大事にしており、それが自社の織物の特徴になっていると考えている。また、着物の帯から鉄道車両用のシートまで両極端の織りを社内の制作部という部署でデザインしているが、実は社内ではそれぞれを分業することなく、制作部では両方のデザインを担当している。そのため今日は鉄道のデザインをおこしていると思えば、来週は帯地のデザインにかかっており、デザインの幅が非常に大きいというのが、当社のデザインの特徴であると締めくくった。
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■ 我が国初の手織りモケット制作
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■ 我が国初の手織りモケット制作
次に、住江織物で車両開発部デザイングループの島津部長に、自社の沿革と取り組みについてご説明いただいた。
鉄道が日本で開業した当時、上等車・中等車には輸入モケットが使用されていたが、その後政府から国産品を導入するようにとの用命が高島屋に下り、当時手織り緞通を納めるために高島屋に出入りしていた当社が、1896年に日本で初めて手織りのモケット制作に成功。1899年には鐵道院のシート地として採用された。その後、1905年に大阪市営電車で大阪市章の柄をあしらったモケットが採用されたのを皮切りに、全国で市章・社章をあしらったモケットが人気となり、当社のモケットも全国に普及していった。
公共交通のモケットをデザインする際、運用される地域の特徴を捉え、モケットのデザインに反映することが多いため、現地調査をしたり、インターネットを活用したりしながら、何度も何度も情報収集をして、図案のイメージ作りをする。通常、モケット等内装材の繊維製品のデザインには、柄の「リピート」が必要である。リピート付けしたデザインを作成することは、工業製品を取り扱うテキスタイルデザイナーにとって必須のスキルである。
モケットは風合いの良さに加え、クッション性や耐久性に優れているが、長期間多くの人に利用される中で、摩耗や毛倒れによる白化も発生するため、デザイナーだけでなく技術者と協力して試行錯誤をすることがきわめて重要である。近年は、鉄道は単なる移動手段ではなく、乗車して楽しむことを目的とした車両も増えつつあるため、視覚的な“心地よさ”はさることながら、テキスタイルデザイナーとして車種に合わせた意匠表現ができるよう、心がけている。
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■ 「攻め」と「守り」のデザイン
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■ 「攻め」と「守り」のデザイン
最後に基調講演や各社の取り組みの発表を受け、月影デザインコンサルティングの山田代表が第1部を総括した。
今回の鉄道技術展・大阪が非常に盛況だが、鉄道と技術が合わさるとこんなに人が集まるということを改めて感じさせられた。技術というのは毎年更新されていくもので、少しでも早く新技術を取り込むことによってイノベーションできるという期待がある。だが一方で、「技術」に対して「文化」というのはそれぞれの地域や時代ごとに存在し、バージョンアップではなく、個性や相違を尊重し合うというところに価値がある。私たちデザイナーはその「技術」と「文化」の架け橋になって新しい世界を創造する。まさに今日発表された2社がしっかりと「技術」に裏付けされた「文化」という話を展開されており、この技術の広がり、鉄道領域の広がりの奥の深さというものを強く感じた。
今回の「鉄道と織物」というテーマを聞いて、歴史をさかのぼると織物の方がはるかに歴史が古い。鉄道は産業革命のあった18世紀の終わりに蒸気機関とともに人々が作り上げた移動の道具。それに対して織物は、まだ人類が裸で生きていた頃、ある意味最初に作った道具の1つである。腰に巻いたかもしれない、あるいは洞窟の中の寝床に敷いたのかもしれない。身体に最も近い道具、それが織物である。
道具の誕生は、最初はこん棒から始まっている。技術をもって槍にしたり、弓にしたり、攻撃的な道具を作っていった。その一方で、防御の道具というものがあって、それが典型的なものは織物、それから器である。道具には「攻めの道具」と「守りの道具」という2種類がある。
そんな観点から鉄道車両を見ると、エクステリアデザインとインテリアデザインというのは、攻めと守りのデザインの違いではないかと考える。攻撃的で、飛んでいって力を発揮するというものは、エクステリアであり「攻めのデザイン」である。対してインテリアというのは、「移動する人を守る、人を心地よくする」という意味において「守りのデザイン」。ゆえにモケット・織物というのはインテリア素材の中でも最も柔らかく、人を心地よくするにふさわしい素材だと思う。
インテリアデザインの重要性は、「心地」の問題だと考えている。例えば、嫌な人と過ごす時間は長く感じるが、好きな人といる時間はあっという間だ。これと同じで不快な環境にいると時間はゆっくり流れ、快適な環境にいるとあっという間に過ぎる。時間は均等に刻まれるものではなく、実際には「伸びたり縮んだりするもの」だ。美しいもの、例えば素敵なモケットの柄があれば、時間は縮む。「美意識」というメカニズムで、我々の精神構造が成り立っているということを意識すれば、インテリアをいかに美しくするかというのはとても大事なことである。実際に、技術でダイヤを縮めることは大変だが、デザインには時間をコントロールする力があるということを皆さんにお伝えしたい。人間は心で動いているので、乗り心地の「心」というものをこれからも大事にしてデザインしていきたい。
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【第2回】
■ インハウスデザイナーがデザインするメリットとは? -
【第2回】
第2部は日本鉄道車輌工業会の鉄道車両デザイン研究会(RDA)に所属する現役デザイナーの3名が、今回のメインテーマの「心地よさをデザインする」について、自身の最近の取り組みについてプレゼンテーションを行った。最初に、アルナ車両営業技術部の大村部長から、「ご乗車されたときから京都気分」のコンセプトで、自身がデザインに携わった阪急電鉄「京とれいん 雅洛」についてのプレゼンテーションを行った。
■ インハウスデザイナーがデザインするメリットとは?
観光列車のデザインは、常識にとらわれない斬新なデザインや知名度、ブランド的戦略の観点から、通常は社外デザイナーや有名デザイナーを起用することが多い。しかし、果たして本当に車両メーカーのインハウスデザイナーでは観光列車のデザインはできないのか、インハウスデザイナーが観光列車を手掛けたらどうなるのかについて考えてきた。
インハウスデザイナーのメリットとしては、事業者・デザイナー・設計者・製造者でアイディアを持ち合い、手作り感覚でデザインをすることができる点が挙げられる。そして、インハウスであるからこそ自ら設計・製造に関わることも可能である。特に今回は、当社が事業者のグループ会社ということもあり、自由な発想で設計を進めることができ、インハウスでデザインするメリットを最大限生かすことができた。
また今回の車両では、自身が京都出身、京都在住である強みを生かし、幼少のころから感じる普段通りの京都、自然体の京都を表現した。京町家は、間口が狭く・奥行きが広い。鉄道車両は、京町家の構造に似ているのではないかというところに着想を得て、「京町家を鉄道車両に」というコンセプトを採用、和の空間に囲まれた「心地良さ」をデザインした。
「京とれいん 雅洛」には窓向きに座席が配置された車両もあるが、窓向きに座る車両を是非一度自分でデザインしてみたいと思いがあった。また、この車両の最大の特徴は、2・5号車に庭付き車両を作ったことであるが、ロングシート配置にして庭がよく見えるように座席を配置した。庭の向かい側は畳敷きの座席を配して、訪日外国人の方にも畳の心地よさを感じてもらえるようにしている。2号車と5号車、それぞれ別の趣があるが、2号車の枯山水の庭の砂紋や石の配置も自分で設計した。5号車の庭は町家の坪庭をイメージ。丹波地方の石材店から灯籠を買ったり、信楽焼の手水鉢を現地に行って調達してきたりと、こちらもすべて自ら造園した。
「京とれいん 雅洛」は特別料金が不要で、全席自由席。そのため、何度でも乗りたくなるよう、また何度でも乗ってもらえるようなインテリアにする必要があった。6両がそれぞれ異なるデザインで、バリエーション豊かな座席配置、モケットは11種類のデザインを用いた。また、家族・カップル・一人旅などさまざまなシチュエーションで使えるようなデザインとして、何度でも乗りたくなる「心地よさ」や、次はどの車両に乗ろう?どの席に座ろう?というような「楽しみ・ワクワク感」などを大切に、設計を行った。
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■ 心地よさとは心の中の美しい波紋
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■ 心地よさとは心の中の美しい波紋
続いて、「地下鉄車両の客室設備二態」というテーマで、近畿車輛デザイン室の福田係長がプレゼンを行った。
今回のテーマの「心地良さをデザインする」の「心地」とは何かと考え、辞書を引くと、「①心の状態、気持ち、気分②身体的な状態の自覚、③心の中、考え、思慮」とある。これらをもとに自分なりに解釈すると、「心地」とは「何かがあって反応する心の動き」の一つであり、「波紋のようなもの」であると考えられる。デザイナーとは、きれいな「波紋」を作るための「きっかけ」を作り出す仕事と言えるかと思う。
これを踏まえ、自分が担当した2つの車両の車内設備について、「心地」を通じて紹介したい。
一つ目は中東カタール国に納めたドーハメトロの車両である。これまで鉄道がなかった社会に新しく鉄道を作るプロジェクトであり、先方の期待も高かった。地下鉄ながら三種類の客室があり、いずれも「安全であること、使いやすいこと」に加えて「ドーハらしさをもたせること」といった要求が出された。
上級客室であるゴールドクラスでは、アクセシビリティや進行方向との関係を考慮してロングシート配置を採用したが、「マジリス」と呼ばれる中東の応接間や会議場の空間構成と関連性を持たせた。また毎日の礼拝により床との親和性が高い文化であるため、床面のデザインにも注力している。ファミリークラスも文化特性から設定されたもので、女性と子供のための客室である。子供用設備の設置と定員確保が課題となり、回答として子供でも大人でも使える座席を提案し採用された。スタンダードクラスは一般的な通勤型車両である。スタンション・ポールは多くの人が身体を支えられると同時に、塔が特徴的な中東の街の印象も組み込んだ形状とした。
自国に対する意識や品質への要求が高い案件であったが、優越感、特別感、満足感、誇り、といった「心地よさ」を追求することで、顧客の要望に応えた車両を提供した。
もう一つの車両は都営三田線の6500形。ドーハとは異なり、鉄道輸送が成熟した社会の車両である。
客先から提示された基本コンセプトは「スマート+コンフォート」であり、シンプルであること、青色を基調とすることが求められた。加えて生産性やメンテナンス性の向上、混雑への対応も課題とされた。
これを受けてデザインを行い、シンプルな形状かつ整理された部品構成とすることを前提としながら、袖仕切には曲面を添えて「もたれ心地」を高め、車椅子スペースでは進行方向に関わらず設備を利用できる「使い心地」を確保するなど、作りやすさやメンテナンスの配慮が安全性や快適性とトレードオフにならないよう心掛けた。顧客の「シンプルであれ」という要望と生産性と快適性にも配慮したデザインが相まって、簡潔で秩序ある車内空間が実現した。目に「見心地の良い」、使って「居心地の良い」客室が6500形の特徴である。
ドーハメトロと都営三田線、どちらも同じ地下鉄車両ではあるが、社会や環境によって求められる「心地よさ」や「機能」は千差万別である。近畿車輛デザイン室は経験の蓄積と、弛まぬ好奇心をもって、多様なお客様に対応している。
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■ お客様、そして鉄道事業に携わるすべての人のために
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■ お客様、そして鉄道事業に携わるすべての人のために
最後に、日本車輌製造東日本営業部の田中担当次長から「ものづくり日本車両が目指す『心地良さ』」をテーマにプレゼンを行った。
今年は、日本で鉄道が開通して150年という節目の年。長い歴史の中で「大勢の人を運ぶ」という大量輸送の代名詞であった鉄道は、今日ではさまざまな用途に対して充実したサービスを提供する車両が多く登場し、進化した乗り物としての新しい時代を迎えている。次々と新型車両が投入される中で、鉄道が単なる移動手段としてだけでなく、その車両に乗車することも一つの目的になるような「選ばれる乗り物」に発展を遂げた。
今回は「心地よさ」がテーマであるが、その類似の表現として、我々が鉄道車両の設計検討時やコンセプト立案などの際に度々用いる「快適性」という言葉も頭に浮かぶ。「快適性」が示すものは、乗り心地・騒音・振動といった、どちらかと言えば数値で表される技術的な要素が大きいが、実際に人々が感じる「心地よさ」とは、技術的な要素以上に感覚や感性領域での要因が強い。たとえば、自分の好みに合っているかどうかといった「美的要因」、自分の行動に適しているかという「機能的要因」、安心感や落ち着きなどを求める「心理的要因」、そして温度や音、においなどの環境要素に影響を受ける「生理的要因」などである。またその感覚自体も人それぞれであり、どのような車両に乗っているのか、時間帯や地域の状況など、利用する目的によって感じ方も大きく異なる。結局のところ、万人が利用する鉄道車両においてはすべての人々が100%の満足を得られることは実質的に困難であり、このことが公共性の高い車両デザインにとって最も難しい課題である。
一方、そのような中でも少しでも快適さを感じてもらえるよう、鉄道事業者は使い勝手やさらなるサービスの向上に向けてあらゆる施策を日々検討しており、また、我々車両メーカーはその鉄道事業者の要望に応えるため、車両での具体的方策や実現性を提案し続けている。そのプロセスにおいて、デザインは事業者やメーカーの思い・方針を具現化していくための手段として非常に重要な役割を担っている。たとえば、外観デザインはその車両のコンセプトを伝える見た目の「心地よさ」につながっており、内装デザインでは移動時間を過ごす空間として「心地よさ」の評価に直結している。
昨年11月に日本車両が発表した新ブランド「N-QUALIS」のブランドコンセプトは、「お客様に安心をお届けする次世代プラットフォーム」。優れた設計・生産技術力に基づく確かな「安全性」、メンテナンス性向上を推進する「保守の省力化」、高い機能性・美観性・きめ細やかなつくり込みによる「高品質」、これら「安全・品質・保守」の3本を柱に、豊富な実績と高い信頼性のもと、さらに磨きをかけ、進化させた車両ブランドである。「心地良さ」という視点で見た場合に、鉄道を取り巻く人々は利用者(乗客)だけではない。事業者内には車両の運行・維持・管理から清掃など多岐にわたるさまざまな関係者、そしてメーカーでは実際に車両を製作する作業者など、すべての人にとって扱いやすく、安心して、不安無く職務に従事できることも「心地良さ」の一つではないかと考える。これも、ユーザーフレンドリーな車両の提供を目指す「N-QUALIS」が求める姿である。
「心地よさ」につなげる検討例としては、清掃性にも配慮した内装構造や、乗務員の作業性を考えたレイアウト、機器配置の工夫による疲労軽減、労働環境の改善(メンテナンス作業者の作業姿勢・時間短縮)などが挙げられる。N-QUALISブランド第1号となったJR東海向け315系は2022年3月より営業運転開始、また、N-QUALISラインナップの一つであるNS台車が採用された小田急電鉄向け5000形は2020年より運転を開始しており、ともにご評価をいただいている。「N-QUALIS」は今後も鉄道事業者ニーズに適合すべくアップデートを行いながら、各要素技術のブラッシュアップを図り、ラインナップを拡大・拡充していくことで、事業者の課題解決に向けた技術の確立を推進するとともに、「心地よい」車両を提供し続けていきたい。
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【第3回】
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【第3回】第3部では、引き続き女子鉄アナウンサー久野知美さんによるテンポ良い進行による、毎年恒例の情報交流会がおこなわれた。今年も前回に引き続き新型コロナウイルス感染対策に考慮し、飲食を伴わない懇親会となったが、熱心な交流が行われていた。冒頭、実行委員である鉄道車両工業会の佐伯洋氏からの挨拶、最後は、実行委員長である近畿車輛・南井取締役による「大阪締め」で散会となった。
(記録:産経新聞社 中村理香/写真:イカロス出版株式会社 佐藤信博、展示会事務局 提供)