第5回レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング 2019
「デザインとエンジニアリングーデザイナーはどのように領域を超えるのかー」2019年11月28日(木) 幕張メッセ 国際会議場 302・304号室
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■ はじめに
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■ はじめに
2019年11月に開催された第6回鉄道技術展(11月27日~29日の3日間/幕張メッセにて)の併催事業として、「第5回レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング2019(RDE)」が開催されました(28日)。主催はフジサンケイビジネスアイとRDE実行委員会です。
テーマは「デザインとエンジニアリング—デザイナーはどのように領域を超えるのか」で、会場には多くの人が集まりました。
そして今回のRDEでは、第1部のテーマ講演、ディスカッションに続き、ポスターセッションとして当工業会の技術委員会である「鉄道車両デザイン研究会(Rolling stock Desing Academy、以下RDAと略す)」の各委員が、3分間ずつ各社作成のポスターパネルを用いたプレゼンテーションを行いました。また第2部の情報交流会では、立食パーティ会場にそのポスターパネルを展示して、多くの参加者の間で情報・意見交換が行われました。
以下、第5回RDE2019の概要報告と共に、RDAの活動内容として報告いたします。
*RDE開催意義に関する経緯を含めた詳細は、本誌482号(2017年4月)、同486号(2018年4月)同490号(2019年4月)の3件の寄稿記事の中で説明しています。 -
■ 講演・鼎談
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■ 講演・鼎談
第1部は「講演・鼎談」とタイトルが付いています。「鼎談」とは、「3人が向かい合って話をすること」(広辞林より)という意味です。2名の方のご講演の後、講師2名とモデレータを含めた3名のディスカッションを行うという内容です。
総合司会は、前回(第4回RDE/2018年12月開催)同様に久野知美さん((株)ホリプロ所属)が務められました。久野さんは、鉄道が大好きなアナウンサーとして、多方面でご活躍されています。今回も、明るい雰囲気でプログラムを進行されました。
まず始めに、(株)GKデザイン機構 相談役 山田晃三氏による開会の挨拶があり、その後にテーマ講演が行われました。
ご講演頂いた2名の講師と、ご講演内容を簡単に紹介致します。
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■ 【テーマ講演1】
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■ 【テーマ講演1】
「美の共有———デザインの本質を探る」
インダストリアルデザイナー
(株)GKインダストリアルデザイン
代表取締役社長
朝倉重德氏
GKデザイングループの紹介に始まり、「表層的きれいさ」と、「美」は異なるという主旨のお話を展開されました。また、技術革新とデザインの歴史についても説明され、デザインとエンジニアリングが、「対立」ではなく、「行き来」することにより、高いレベルでピークを目指していくという説明がありました。
またその具体的な例として、近畿日本鉄道(株)80000系「ひのとり」の設計作業の流れの中における、デザイン部門とエンジニアリング部門との協調作業について分かりやすく説明されました。 -
■ 【テーマ講演2】
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■ 【テーマ講演2】
「領域融合による新価値創造———設計におけるプロジェクトのかたち」
インダストリアルデザイナー
産業技術大学院大学 名誉教授
京都精華大学 客員教授
福田 哲夫氏
日本人の美意識に関する話題(シンプルイズベスト、さっぱりとして余計なものがない)から始まり、流線形やエコデザインまで、デザイン全体の流れについて説明されました。
また、東海道新幹線の700系及びN700系の開発を具体例として、例えば300系では天井にあった空調吹き出し口が、700系では荷棚から下の位置に吹き出し口を設置することにより風道が短くなったため、軽量化、低重心化に寄与したこと、出入台やトイレでは曲線による品質向上と原価低減の例について、デザインとエンジニアリングの観点からその融合について詳しい説明をされました。
さらに、柔軟な発想が新しい価値を生んでいくという考えについて、参加者全員に卵を描いてもらい、大半の人が鶏の卵を描きましたが、例えば魚や昆虫の卵のように卵にもいろいろな種類があることを示され、柔軟な発想が重要であることを説明されました。 -
■ 【鼎談】
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■ 【鼎談】
講師2名及び
近畿車輛(株)取締役
南井 健治氏
RDE実行委員会の委員長でもある南井氏から、両講演者に質問するという形でディスカッションが行われました。
まず、南井氏より、デザインをする際に出て来る多くの制約への対処や考え方について質問がなされましたが、「デザインには、制約があって当たり前である」というのが、両講演者のお答えでした。
次に、「コミュニケーション」は様々なプロジェクトを進めて行く上で重要なツールであり、各分野の領域を超えたコミュニケーション(情報交換と意思疎通)がそれぞれのプロジェクトに適した形で発生してくることがプロジェクトをうまく運営する要素であるという展開から、最後には、デザイナーの仕事は「プロジェクトとして領域を融合させることである」とのお話で、お考えが一致しました。
そして、大変興味深い質疑応答の内容で、さらにお話を展開頂きたかったのですが、プログラムの時間制約もあったために、南井氏よりご講演頂いた方への御礼の言葉で終了となりました。 -
■ ポスターセッション
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■ ポスターセッション
「鼎談」の後は、鉄道車両デザイン研究会(RDA)の各委員(一部代理の方を含む)によるポスターセッションが行われました。各自3分間ずつで、各社のデザインの理念及び実例を紹介しました。
この企画は、これまでのRDEでは実施されておらず、今回初めてのプログラムとして行われました。
各社からの発表内容の要旨を、簡単にご紹介致します。 -
(1)アルナ車両(株)営業・技術部 大村部長
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(1)アルナ車両(株)営業・技術部 大村部長
同社が開発・製造する超低床型路面電車「リトルダンサー」シリーズは、少量生産であるために効率化の観点から共通設計部分はあるものの、地域や客先の要求に合わせてデザインを工夫しているとの説明がありました。
他方では、阪急電鉄7000系「京とれいん雅洛」については、全面的にデザインを任されたことを報告し、同社のデザイン力をPRされました。 -
(2)川崎重工業(株)車両カンパニー 国内プロジェクト本部
技術企画部 デザイン課 濱田課員 -
(2)川崎重工業(株)車両カンパニー 国内プロジェクト本部
「明日も出かけたくなるようなノリモノの実現」を車両デザイン部門の活動理念としていて、「地域に合うこと」「印象に残ること」「自然なこと」をデザインの評価基軸に置いているという説明がありました。
技術企画部 デザイン課 濱田課員
また、西武鉄道40000系のパートナーゾーンの設計を具体例として、「自然な」デザインの評価に関して、VR(Virtual Reality)技術を利用した事前検証の実施例についても紹介がありました。 -
(3)近畿車輛(株)デザイン室 杉本課長
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(3)近畿車輛(株)デザイン室 杉本課長
同社では、「ユニークなデザイン」をモットーとして、デザイン部門とエンジニアが一体となった体制で鉄道車両を完成させていると説明がありました。また、ユニークさのキーワードとして「地域シンボルの最適解」、「安全で思いやりのある使いやすさ」、「アイディアをかたちに完成まで」、「妥協を許さない検証」という考えでデザインを進めていることを紹介されました。 -
(4)(株)総合車両製作所技術本部 技術部(デザインセンター)
横川主任 -
(4)(株)総合車両製作所技術本部 技術部(デザインセンター)
同社が製造する次世代ステンレス車両「sustina」は、共通プラットフォームの採用によりコスト低減を実現していると紹介がありました。また最近の車両デザインの具体例としては、東京都交通局浅草線5500形に取り入れた「浅草線が持っている江戸文化」というテーマの具体化策として、日本を直感的に感じられる歌舞伎の隈取をモチーフにしたデザインの紹介がありました。
横川主任 -
(5)日本車輌製造(株)鉄道車両本部 技術部 デザイングループ
田中グループ長 -
(5)日本車輌製造(株)鉄道車両本部 技術部 デザイングループ
車両メーカから見て、鉄道車両にはふたつのお客様があります。ひとつは乗客(利用者)であり、もうひとつは鉄道事業者です。我々はその利用者のニーズにもお応えできるよう、「事業者とともに創り上げる鉄道車両の未来」を常に意識してデザイン活動を行っていると紹介がありました。
田中グループ長
また同社の直近のデザイン事例として、京成電鉄3100形と新京成電鉄80000形の紹介がありました。京成電鉄3100形では、座席に仕掛けられた新たな機能として、8人掛けシートの中央2席が映画館の椅子のような折りたたみ式になっており、空席時は座面を跳ね上げて荷物スペースとして利用できる腰掛の設置等について説明がありました。
なお、東芝インフラシステムズ(株)と(株)日立製作所については、ポスターセッションでの発表はありませんでしたが、情報交流会では、ポスターパネルを展示していただきました。 -
■ 情報交流会
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■ 情報交流会
第1部の終了後には、別の会場スペースに移り、情報交流会が開催されました。
RDE開催の主目的である「鉄道のデザインに関係する方々が一同に会して情報交流を行う場」として、毎回立食パーティー形式で行われています。
今回の情報交流会では、第1部「ポスターセッション」で使用したポスターパネルを情報交流会の場に展示して、より活発な意見交換ができる雰囲気作りと演出をしました。その効果もあり、また第1部では質疑応答時間を用意していなかったために、第2部では、個別にパネルを見ながら、より一層活発な意見交換がなされていたと感じています。
そして、第2部も久野知美さんの司会で、明るい雰囲気の中で進行して頂き、大いに盛り上がりました。
RDEは、鉄道車両に関係するデザイナーだけではなく、技術者や学生までを含めた交流の場として、定着してきたとも感じる場でした。
盛況の中、時間があっと言う間に過ぎ、最後は、近畿車輛(株)南井氏の中締め挨拶で終了となりました。
第5回レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング(RDE)への参加報告
「鉄道車両工業No.494」(2020年4月、発行:一般社団法人日本鉄道車輌工業会)
より抜粋