鉄道の歴史は、産業革命の19世紀にさかのぼります。およそ200年、安全で安定した輸送は鉄道技術の進歩とともにありました。いっぽうで利用者の快適性や、鉄道の魅力づくりにかかわってきたのが、鉄道デザイナーたちです。
鉄道デザインの分野は鉄道車両にとどまらず、駅舎や設備機器、サイン、橋やトンネルなどにまで対象は広がっています。街づくりや地域の文化形成にも重要な役割を果たします。こうした鉄道デザインは一人のデザイナーのみで成立はせず、多様なデザイナー、技術者、経営者までまきこんだ協奏の世界です。
専門の違うさまざまなデザイナーが一堂に会し、所属や役職を超えて交流しながら、総合的視点で鉄道の未来を思考する —— 。レイルウェイ・デザイナーズ・イブニングは、そのための一夕、これを提供する活動グループです。
RDE、
レイルウェイ・デザイナーズ・イブニングは、
鉄道デザインの大切さを、みなさんとともに考えます。
■ 設立経緯・趣旨
RDEは
鉄道デザインの過去・現在・未来を連続してとらえています。
綿々とつながるデザインへの思いを未来へ届けます。
1.国鉄時代の「車両工業デザイン委員会」
1958年、日本鉄道車輌工業会のなかに「車両工業デザイン委員会」が誕生しました。「これからはデザインの時代だ」との強い思いの中で、技術者や設計者たちを中心に工業デザインの導入が始まりました。当時の日本は、自動車や家電製品といった消費財のデザインがはじまった時代。しかし、鉄道車両においては商品性よりも人間工学的な観点が強く、いかに機能的で合理的、あわせて生産性の向上がデザインの基本となっていました。
2.国鉄の民営化と総合的デザイン戦略の導入
国鉄が民営化された1987年「車両工業デザイン委員会」は30年にわたる活動に幕を閉じました。これからは鉄道自体が他の交通機関との競争関係になり、各社のデザインが重要になったからです。JR東日本は、デザインの重要性を経営方針として宣言し、「車両のデザイン/駅舎・施設のデザイン/情報伝達のデザイン」の3領域を対象に総合的デザイン戦略を導入。他の事業者も自社デザインを積極的に取り入れました。
3.鉄道輸送の魅力と鉄道デザイン
それからおよそ30年以上が経過しました。さまざまな鉄道車両が誕生した黄金時代だったかもしれません。車両ばかりでなく駅舎や設備機器、橋やトンネル、移動情報など鉄道デザインの対象が自然に広がりました。鉄道は自動車と違い、地域に密着した輸送機関です。地域の個性や街づくりなど地域文化に大きな影響を与えます。いま一度、鉄道デザインの本質を議論しようではないかと2014年、RDEが誕生しました。同時に、鉄道デザインにかかわる多様な人々の交流の場となることを目指しました。
4.鉄道技術と鉄道文化の架け橋として
RDEの結成は鉄道デザインの流れからすると必然でした。私たちは隔年で開催される日本の鉄道技術の祭典「鉄道技術展」(幕張)においてRDEフォーラムを開催し、鉄道技術における鉄道デザインの重要性をアピールしました。技術は日進月歩進化を続けます。安全便利な移動環境を提示する技術に、人の心の豊かさを反映する ——「鉄道技術と鉄道文化」の架け橋として、RDEはデザイン活動を続けています。
1958年、日本鉄道車輌工業会のなかに「車両工業デザイン委員会」が誕生しました。「これからはデザインの時代だ」との強い思いの中で、技術者や設計者たちを中心に工業デザインの導入が始まりました。当時の日本は、自動車や家電製品といった消費財のデザインがはじまった時代。しかし、鉄道車両においては商品性よりも人間工学的な観点が強く、いかに機能的で合理的、あわせて生産性の向上がデザインの基本となっていました。
2.国鉄の民営化と総合的デザイン戦略の導入
国鉄が民営化された1987年「車両工業デザイン委員会」は30年にわたる活動に幕を閉じました。これからは鉄道自体が他の交通機関との競争関係になり、各社のデザインが重要になったからです。JR東日本は、デザインの重要性を経営方針として宣言し、「車両のデザイン/駅舎・施設のデザイン/情報伝達のデザイン」の3領域を対象に総合的デザイン戦略を導入。他の事業者も自社デザインを積極的に取り入れました。
3.鉄道輸送の魅力と鉄道デザイン
それからおよそ30年以上が経過しました。さまざまな鉄道車両が誕生した黄金時代だったかもしれません。車両ばかりでなく駅舎や設備機器、橋やトンネル、移動情報など鉄道デザインの対象が自然に広がりました。鉄道は自動車と違い、地域に密着した輸送機関です。地域の個性や街づくりなど地域文化に大きな影響を与えます。いま一度、鉄道デザインの本質を議論しようではないかと2014年、RDEが誕生しました。同時に、鉄道デザインにかかわる多様な人々の交流の場となることを目指しました。
4.鉄道技術と鉄道文化の架け橋として
RDEの結成は鉄道デザインの流れからすると必然でした。私たちは隔年で開催される日本の鉄道技術の祭典「鉄道技術展」(幕張)においてRDEフォーラムを開催し、鉄道技術における鉄道デザインの重要性をアピールしました。技術は日進月歩進化を続けます。安全便利な移動環境を提示する技術に、人の心の豊かさを反映する ——「鉄道技術と鉄道文化」の架け橋として、RDEはデザイン活動を続けています。
■ 対象領域
鉄道デザインの全体像/トータルデザインの視点
鉄道デザインの対象領域は、車両からはじまり、
関連する多様な分野にひろがります。
1. カーデザインの登場
1930年代、米国ではモータリゼーションの発展によって、鉄道が自動車に駆逐されるという事態が起こりました。ときの自動車は時間に縛られない、どこにでも好きなところに行ける自由さがありました。さらには、自動車の「デザイン」の力が大きく作用しました。かっこいい真っ赤な自動車に大衆は憧れ、メーカーのブランドが「家族のステータス(地位)」をくすぐる。これがカーデザインの狙いでした。今でもカーデザインはそうです。
2. トータルデザインの視点
対し鉄道デザインは、カーデザインと同等ではありません。鉄道はレールを敷き、駅を作り、車両を走らす。その地域に根ざした総合的な輸送サービスです。デザインの対象は車両にとどまらず、駅、橋、トンネル、サイン、トイレ、商業施設、駅員の制服など多岐にわたります。すなわちカーデザインとは違う「トータルデザインの視点」が重要で、これによって、個人ではなく「地域のステータス」を高めること。これが鉄道デザインの自動車デザインとは違う最大の特徴です。
3. 問題解決のためのデザイン
よって、鉄道デザインは、いわゆる車両のデザイナーだけの問題ではありません。エンジニアや建築家、土木技師、企画や研究、さらには経営にかかわる人たちの総力をもって総合的にデザインするのがレイルウェイ・デザインです。現代ではデザインの役割は、色やカタチの善し悪し(それも重要ですが)というよりも、「問題解決のための総合的なアプローチ」というのが正しい理解でしょう。
4. 多様なデザインの対象
ここに、トータルデザインの相関図(全体像)を提示いたします。鉄道デザインの対象を整理したものです。この図の真ん中には「車両」を置く。何といっても車両は鉄道事業の顔、唯一動く景観であって象徴性が極めて高い。そのまわりに、上から「駅空間」「駅設備」「サービス」「人」「ブランド」「サイン」の6つを配しました。さらにその外側にも「街づくり」「役務機器」「土木インフラ」「地域連携」「事業拡大」「組織」「企業アイデンティティ(CI)」「広告宣伝」「景観」など多様な対象が登場します。これまで、縦割りでそれぞれが別々に考えられていたものを、トータルデザインは、「一本横に串を通す」というような、そんな総合的な視点を持つこと。それによって、どこにもない魅力的な鉄道事業を創造しようとするものです。
5. 豊かさとは何かを考える
最後にこの「レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング」という活動が目指すところをお話しします。「日本が誇る鉄道デザインの未来」——これを鉄道に関わる多様な方々を交え議論していきたい。日本が世界に誇るべきものは何か。一番の売りは何か。さらに想像すれば技術は急速に進歩します。極度な技術進化の先に何が見えるのか。もうひとつは「文化」です。移動する身体や、地域との関わりの中から、人を安心させる心(精神)の領域です。最終的には、鉄道移動を通して「豊かさとは何なのか」、思考はここに行き着くのではないでしょうか。
私たちは、デザインは「技術と文化」の媒介者として、その役割を果たしていくべきであると考えています。
1930年代、米国ではモータリゼーションの発展によって、鉄道が自動車に駆逐されるという事態が起こりました。ときの自動車は時間に縛られない、どこにでも好きなところに行ける自由さがありました。さらには、自動車の「デザイン」の力が大きく作用しました。かっこいい真っ赤な自動車に大衆は憧れ、メーカーのブランドが「家族のステータス(地位)」をくすぐる。これがカーデザインの狙いでした。今でもカーデザインはそうです。
2. トータルデザインの視点
対し鉄道デザインは、カーデザインと同等ではありません。鉄道はレールを敷き、駅を作り、車両を走らす。その地域に根ざした総合的な輸送サービスです。デザインの対象は車両にとどまらず、駅、橋、トンネル、サイン、トイレ、商業施設、駅員の制服など多岐にわたります。すなわちカーデザインとは違う「トータルデザインの視点」が重要で、これによって、個人ではなく「地域のステータス」を高めること。これが鉄道デザインの自動車デザインとは違う最大の特徴です。
3. 問題解決のためのデザイン
よって、鉄道デザインは、いわゆる車両のデザイナーだけの問題ではありません。エンジニアや建築家、土木技師、企画や研究、さらには経営にかかわる人たちの総力をもって総合的にデザインするのがレイルウェイ・デザインです。現代ではデザインの役割は、色やカタチの善し悪し(それも重要ですが)というよりも、「問題解決のための総合的なアプローチ」というのが正しい理解でしょう。
4. 多様なデザインの対象
ここに、トータルデザインの相関図(全体像)を提示いたします。鉄道デザインの対象を整理したものです。この図の真ん中には「車両」を置く。何といっても車両は鉄道事業の顔、唯一動く景観であって象徴性が極めて高い。そのまわりに、上から「駅空間」「駅設備」「サービス」「人」「ブランド」「サイン」の6つを配しました。さらにその外側にも「街づくり」「役務機器」「土木インフラ」「地域連携」「事業拡大」「組織」「企業アイデンティティ(CI)」「広告宣伝」「景観」など多様な対象が登場します。これまで、縦割りでそれぞれが別々に考えられていたものを、トータルデザインは、「一本横に串を通す」というような、そんな総合的な視点を持つこと。それによって、どこにもない魅力的な鉄道事業を創造しようとするものです。
5. 豊かさとは何かを考える
最後にこの「レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング」という活動が目指すところをお話しします。「日本が誇る鉄道デザインの未来」——これを鉄道に関わる多様な方々を交え議論していきたい。日本が世界に誇るべきものは何か。一番の売りは何か。さらに想像すれば技術は急速に進歩します。極度な技術進化の先に何が見えるのか。もうひとつは「文化」です。移動する身体や、地域との関わりの中から、人を安心させる心(精神)の領域です。最終的には、鉄道移動を通して「豊かさとは何なのか」、思考はここに行き着くのではないでしょうか。
私たちは、デザインは「技術と文化」の媒介者として、その役割を果たしていくべきであると考えています。
■ 主催者
RDE実行委員会
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委員長
南井 健治(みないけんじ)
近畿車輌株式会社 顧問79年近畿車輌入社。国内外の鉄道車両デザインに携わる。担当した車両は多岐に渡るが、特に輸出車両として、アメリカ、東南アジア、中東の案件を手がけた。営業企画部長を経て15年より役員となり、取締役常務執行役員。24年に退任し現在に至る。著書に「鉄道車両のデザイン(学研)2013」がある他、雑誌への寄稿多数。日本インダストリアルデザイン協会会員。 -
山田 晃三(やまだこうぞう)
月影デザインコンサルティング 代表1979年GKインダストリアルデザイン研究所入所。2005年GKとマツダの合弁によるGKデザイン総研広島(GK-DSH)代表取締役社長。12年GKデザイン機構(GKグループ本社)代表取締役社長、相談役を経て現在に至る。モビリティのあり様をトータルデザインの視点から提言、「鉄の道」を思考する。公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)日本グッドデザイン賞審査員フェロー。公益社団法人日本サインデザイン協会(SDA)副会長。道具学会理事。 -
佐伯 洋(さえきひろし)
一般社団法人日本鉄道車輌工業会 参与/鉄道友の会 会長昭和36年10月国鉄白紙ダイヤ改正から新幹線開業までの3年間、東海道本線の「華」の時代に魅せられて鉄道を愛好。以来、学生時代、霞が関勤務(主に鉄道局)を経て09年より現職。RDEの活動に触発され、かつて当工業会に在したデザイン委員会をベースにRDA(鉄道車両デザイン研究会)を発足。 -
鼠入 隆志(そいりたかし)
レールアンドテック出版の代表。長らく鉄道雑誌、特に技術関係の雑誌などの編集にかかわる。約30年以上前から、インダストリデザイナーの方との交流が始まり、プロダクトデザインの中から技術とデザインの相互作用により、よりよい製品が生まれてくるのではないかと考えている。優れた技術は優れたデザイン性を持つ。 -
橋本 優子((はしもとゆうこ)
近代建築・デザイン史家。文星芸術大学非常勤講師。宇都宮大学大学院博士後期課程。京都工芸繊維大学大学院修士課程修了。研究領域は、近代建築・デザイン史、文化地質学、感性工学。単著に『フィンランド・デザインの原点』(2017)、共著に『ファッションヒストリー1850-2020』(2024) 、『Japanese Design Today 100』 (2023) など多数。工学修士。
産経新聞社は、産經新聞、サンケイスポーツ、夕刊フジ、競馬エイトなど日刊で発行する一方、新聞社で主催する多彩なイベントを開催。2021年4月にフジサンケイビジネスアイのコンベンション事業を継承。国内外の鉄道技術が集結する専門見本市「鉄道技術展」を主催する。旧日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)時代から続く歴史ある展示会・見本市事業の伝統を守りつつ、関連業界のさらなる発展に寄与していく。